会社を辞めると、給与から天引きされていた健康保険はどうなるのか。転職の準備で見落としやすいのがこの手続きです。次の会社に入るまで1日でも空くと、自分でどれかの健康保険に入る手続きが要ります。
この記事では、退職後に選べる健康保険の種類と、それぞれの条件・期限・保険料の決まり方を、健康保険法・国民健康保険法などの法令と、協会けんぽ・厚生労働省・日本年金機構の公式情報だけで整理します。
答え:会社の健康保険は退職日の翌日に資格がなくなります。次の会社にすぐ入らない場合は、①今の健康保険を続ける任意継続(資格喪失日から20日以内に申出)、②国民健康保険(14日以内に市区町村へ届出)、③家族の健康保険の扶養に入る、の3つから選びます。保険料は、任意継続は退職時の標準報酬月額で決まり、国保は前年の所得と住んでいる市区町村で決まるため、両方の金額を確かめて比べるのが基本です。
退職後の健康保険は3つから選ぶ
健康保険法では、会社の健康保険の被保険者は「その事業所に使用されなくなったとき」の翌日に資格を失います(健康保険法第36条)。つまり、3月31日に退職した人は4月1日から会社の健康保険の加入者ではなくなります。
協会けんぽは、退職後の健康保険として次の3つを案内しています。
| ① 任意継続 | ② 国民健康保険 | ③ 家族の扶養 | |
|---|---|---|---|
| 手続き先 | 加入していた健康保険(協会けんぽなら住所地の支部) | 住所地の市区町村 | 家族の勤務先(家族が入っている健康保険) |
| 期限 | 資格喪失日から20日以内 | 14日以内 | 勤務先の手続きに従う |
| 入れる期間 | 最長2年 | 期限なし | 条件を満たす間 |
| 保険料 | 退職時の標準報酬月額 × 保険料率(全額自己負担・上限あり) | 前年の所得・世帯の人数などで市区町村が計算 | 本人の負担なし |
| 家族の分 | 被扶養者の保険料負担なし | 加入する人ごとに計算 | — |
すぐ次の会社に入るなら?空白期間があるときは?
退職日の翌日に次の会社に入社する(たとえば3月31日退職・4月1日入社)なら、資格がなくなる日と新しい会社で資格を取る日が同じなので、自分で任意継続や国保の手続きをする場面はありません。新しい会社の健康保険の手続きは会社が行います。
一方、1日でも空く場合は話が別です。国民健康保険法では、会社の健康保険などに入っていない人は、該当しなくなった日から国民健康保険の資格を取るとされています(国民健康保険法第6条・第7条)。空白が数日でも、その間はどこかの健康保険に入る扱いになるので、次の会社の入社日が決まっていても、その前の期間をどうするかを決めておく必要があります。
短い空白でどれを選ぶと負担が軽いかは、保険料が「月」単位で決まることや、市区町村の計算方法によって変わります。迷ったら、加入していた健康保険と住所地の市区町村の両方に、自分の退職日・入社日を伝えて確かめるのが確かです。
任意継続とは(条件・20日以内・2年間)
任意継続は、退職したあとも、それまで入っていた健康保険に個人として入り続けるしくみです(健康保険法第3条第4項)。
- 条件:資格を失った日の前日までに、継続して2か月以上被保険者だったこと。
- 期限:資格を失った日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る(健康保険法第37条)。協会けんぽは、20日目が土日祝日なら翌営業日まで、郵送なら20日以内に届くことが必要としています。
- 入れる期間:任意継続被保険者になった日から2年(健康保険法第38条)。
- 保険料の納付:協会けんぽでは毎月10日まで。納付期限までに納めないと資格を失います。最初の保険料を期日までに納めなかった場合は、任意継続被保険者にならなかったものとみなされます(同法第37条第2項)。半年分・1年分をまとめて納める前納の制度もあります。
- 途中でやめられる場合:次の会社の健康保険に入ったとき、後期高齢者医療の被保険者になったときなどのほか、本人がやめたいと申し出たときは、申出が受理された日の属する月の末日が来た時点で資格を失います(同法第38条第7号)。
受けられる給付は原則として在職中と同じで、病院の窓口での負担割合も変わりません。ただし、任意継続の期間中にかかった病気・けがによる傷病手当金・出産手当金は出ません(在職中から続けて受けている場合は申請できます)。
任意継続の保険料はいくら?
協会けんぽの任意継続の保険料は、次の式で決まります。在職中は会社と半分ずつ負担していた保険料を、退職後は全額自分で払うことになります。
退職時の標準報酬月額 × 住んでいる都道府県の保険料率(子ども・子育て支援金率を含む)
※40〜64歳は介護保険料が加わります。
令和8年度は、退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた人は32万円で計算します(協会けんぽの任意継続の標準報酬月額の上限)。協会けんぽ東京支部の場合、保険料率は健康保険9.85%、子ども・子育て支援金0.23%、介護保険(40〜64歳)1.62%です。東京支部の保険料額表で、標準報酬月額32万円の欄の「全額」を足すと次のとおりです。
| 協会けんぽ東京支部・標準報酬月額32万円の場合 | 月の保険料(全額) |
|---|---|
| 39歳以下(介護保険なし):健康保険31,520円+子ども・子育て支援金736円 | 32,256円 |
| 40〜64歳(介護保険あり):健康保険・介護保険36,704円+子ども・子育て支援金736円 | 37,440円 |
これは上限の欄の金額で、退職時の標準報酬月額が32万円より低い人は、その額に保険料率を掛けた金額になります。保険料率は都道府県ごとに違うので、自分の都道府県の保険料額表で確かめてください。健康保険組合に入っていた人は、組合ごとに保険料率や上限が違うため、その組合に確認します。
国民健康保険(14日以内・保険料の決まり方)
会社の健康保険などに入らなくなった人は、その日から国民健康保険の被保険者になります(国民健康保険法第7条)。世帯主は、14日以内に住所地の市区町村へ届け出ることになっています(国民健康保険法施行規則第3条)。手続きで、加入していた健康保険の資格喪失を証明する書類を求められることがあり、協会けんぽの資格喪失証明などは年金事務所で発行されます。
保険料(市区町村によっては「保険税」)の具体的な計算方法は、市区町村の条例で決まります。厚生労働省によると、保険料は世帯単位で、加入する人ごとに「応益分(均等割など)」と「応能分(所得割など)」を計算して合計します。そのため、同じ年収でも住んでいる市区町村によって金額が変わります。
- 所得が一定の基準を下回る世帯は、応益分(均等割・平等割)が7割・5割・2割減額されます。
- 災害など特別の事情で納めるのが難しい場合は、減免や納付猶予を受けられることがあります。
- 家族も一緒に国保に入る場合は、加入する人ごとに計算した額を世帯で合計します。
会社都合などで辞めた人は国保の保険料が軽くなる
倒産・解雇などで離職した人は、在職中と同じくらいの負担で医療保険に入れるように、国保の保険料を軽くするしくみがあります(厚生労働省)。
- 対象:雇用保険の特定受給資格者(倒産・解雇など)と特定理由離職者(雇い止めや、正当な理由のある自己都合など)。
- 内容:前年の給与所得を30/100とみなして保険料を計算します。高額療養費などの所得区分の判定でも同じ扱いです。
- 期間:失業したときから、その翌年度末まで。
- 申請先:住所地の市区町村の窓口。
自分が特定受給資格者・特定理由離職者にあたるかは、ハローワークで受給手続きをしたときの離職理由で決まります。正当な理由のある自己都合の例や、失業保険の給付制限については、失業保険 自己都合の給付制限は1か月|いつから・何日分でまとめています。この軽減にあたる人は、国保の保険料が大きく下がる場合があるので、任意継続と比べる前に確かめておきたい点です。
家族の扶養に入る(収入の条件と失業保険)
配偶者や親など、家族が会社の健康保険に入っている場合は、その被扶養者になる道もあります。被扶養者には保険料の負担がありません。協会けんぽの収入の条件は次のとおりです。
| 扶養に入る人 | 年間収入の条件 |
|---|---|
| 原則 | 130万円未満 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者を除く。2025年10月1日以降の認定) | 150万円未満 |
| 60歳以上または障害者 | 180万円未満 |
あわせて、同居なら収入が被保険者(家族)の収入の半分未満、別居なら被保険者からの仕送り額未満であることが必要です。ここでいう年間収入は、過去の収入ではなく、扶養に入る時点からのこれから1年間の見込みの額です。
注意したいのが失業保険(雇用保険の基本手当)との関係です。日本年金機構の案内では、被扶養者の年間収入には雇用保険の失業等給付も含まれ、雇用保険の受給者は日額3,611円以下であることが条件とされています(年間130万円未満の場合)。待期期間中は収入の条件を満たせば扶養に入れますが、基本手当の支給が始まって日額がこれを超えると、扶養から外れる届出が必要になります。その間は任意継続か国保に入ることになるので、失業保険を受け取る予定の人は、扶養に入れる期間も見込んでおきます。
家族の勤務先が健康保険組合の場合は、組合ごとに必要書類などが違うことがあるので、家族の勤務先を通じて確認します。
任意継続と国保、どっちが安い?比べ方
どちらが安いかは、人によって違います。任意継続は「退職時の標準報酬月額」、国保は「前年の所得と住んでいる市区町村」で決まり、計算のもとが別だからです。次の順で比べると迷いにくくなります(当サイトの整理)。
- 家族の扶養に入れるかを先に確かめる:条件を満たせば保険料の負担がありません。失業保険を受け取る期間は外れることがある点に注意。
- 任意継続の保険料を出す:退職時の標準報酬月額(給与明細や会社で確認)×都道府県の保険料率。上限(協会けんぽは令和8年度32万円)を超えていれば上限で計算。
- 国保の保険料を市区町村に聞く:前年の所得をもとに計算されるので、住所地の市区町村の窓口かホームページで確かめます。会社都合などの人は30/100の軽減も含めて。
- 家族の人数と期間で比べる:任意継続は被扶養者の保険料がかからず、国保は加入する人ごとにかかります。また、国保の保険料は前年の所得で決まるため、退職した翌年度は所得が下がって安くなることがあります。任意継続は2年間、原則として保険料が変わりません(料率の変更などを除く)。
任意継続は20日以内、国保は14日以内と期限が短いので、退職前に両方の金額を出しておくと、退職後にあわてずに済みます。任意継続は本人の申出で途中でやめられるので、加入したあとで国保のほうが安いとわかった場合の選択肢もあります(やめたあとは国保などに入る手続きが要ります)。
退職後は医療費の自己負担も気になるところです。1年間の医療費が多くかかったときに税金が戻る医療費控除については、姉妹サイトの金融研究所の医療費控除はいくら戻る?計算方法と対象・10万円以下が参考になります。
14日を過ぎたらどうなる?
国保の届出が14日を過ぎても、加入の手続きはできます。ただし、国保の資格は会社の健康保険などに入らなくなった日から取ることになっている(国民健康保険法第7条)ので、届出が遅れても加入日は退職日の翌日のままです。保険料もその月の分からさかのぼってかかると考えておくのが安全です。届出が遅れた間に病院にかかった場合の扱いは市区町村によって案内が違うので、住所地の窓口で確かめてください。
任意継続の20日以内の期限は、保険者が正当な理由があると認めた場合を除き、過ぎると申し出ができません(健康保険法第37条)。任意継続を考えている人は、とくに日付に注意が必要です。
年金の切り替えも14日以内
健康保険と同じタイミングで、年金も切り替わります。会社員は厚生年金(国民年金の第2号被保険者)ですが、退職して次の会社に入るまで日が空くと、退職日の翌日から国民年金の第1号被保険者になります(日本年金機構)。
- 期限と提出先:退職日の翌日から14日以内に、住所地の市区町村役場へ「国民年金被保険者関係届書(申出書)」を出します。
- 持ち物:基礎年金番号がわかるもの(基礎年金番号通知書など)またはマイナンバーカードなど。退職直後は、離職票など厚生年金の資格喪失日がわかる書類が要る場合があります。
- 家族の扶養に入る場合:会社員の配偶者の扶養に入るなら第3号被保険者で、手続きは配偶者の勤務先を通じて行います。
- 扶養していた配偶者がいる場合:退職した人に扶養されていた配偶者も第3号ではなくなるので、配偶者本人も第1号の手続きをして保険料を納めます。
- 払うのが難しいとき:退職(失業など)で保険料を納めるのが難しい場合は、「特例免除」を申請できます。
退職前後のチェックリスト
- 退職日と入社日:1日でも空くか。空くなら健康保険と年金の手続きが要る。
- 退職時の標準報酬月額:給与明細や会社で確かめ、任意継続の保険料を出す。
- 国保の保険料:住所地の市区町村で、前年の所得をもとにした金額を確かめる。会社都合などなら軽減も。
- 家族の扶養:収入の条件(これから1年の見込み)と、失業保険を受け取る期間の扱い。
- 期限:任意継続は資格喪失日から20日以内、国保と国民年金は14日以内。
これは当サイトの整理です。転職で収入がどう変わる人が多いかは転職で年収は上がる?下がる?統計で答える9つのQ&Aでまとめています。退職のあとは収入が途切れる期間もあるので、お金の備えについては金融研究所の保険の見直しの考え方|公的保障と必要保障額を先に確認もあわせてどうぞ。
まとめ
- 会社の健康保険は退職日の翌日に資格がなくなる。次の会社に翌日入社するなら自分の手続きは要らない。
- 日が空くなら、任意継続(20日以内・最長2年)、国民健康保険(14日以内)、家族の扶養の3つから選ぶ。
- 任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額×保険料率で全額自己負担。協会けんぽは令和8年度、標準報酬月額32万円が上限。
- 国保の保険料は前年の所得と市区町村で決まる。会社都合などで辞めた人は前年の給与所得を30/100とみなす軽減がある。
- 扶養は収入の条件があり、失業保険の日額が3,611円を超えると外れる。年金も14日以内に第1号への切り替えを。
出典・注意書き
基準日:2026年11月時点(各ページは2026年11月2日に当サイトが閲覧して確認。任意継続の上限・保険料率は令和8年度の額)
- 健康保険法(第3条・第36条・第37条・第38条)(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 国民健康保険法(第6条・第7条)(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000192
- 国民健康保険法施行規則(第3条)(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/333M50000100053
- 協会けんぽ「任意継続」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3270/
- 協会けんぽ「退職後の健康保険について」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r313/
- 協会けんぽ「令和8年度の協会けんぽの保険料率」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/rate_prefectures/r08/index.html
- 協会けんぽ 東京支部「令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/assets/R8_13tokyo.pdf
- 協会けんぽ 大阪支部「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/osaka/news/r07_sep/557.html
- 日本年金機構「健康保険被扶養者(異動)届」の説明:https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/tekiyo/hihokensha/20141224.files/setumei.pdf
- 厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21517.html
- 日本年金機構「会社を退職したときの国民年金の手続き」:https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/kanyu/20140710-03.html
- 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」:https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/kanyu/20140710-04.html
ご注意
- この記事は、退職後の健康保険と年金の一般的な仕組みを、法令と公式情報をもとに整理したものです。個別の加入の可否・保険料の金額・扶養の認定を判断・保証するものではありません。最終的な判断は、加入していた健康保険(協会けんぽの支部・健康保険組合)、住所地の市区町村、年金事務所が行います。
- 任意継続の保険料の例は協会けんぽ東京支部・令和8年度の保険料額表の上限の欄で、都道府県・年度・健康保険組合によって変わります。国民健康保険料は市区町村ごとに計算方法が違います。
- 制度は改正されることがあります。手続きの前に最新の公式情報をご確認ください。
- 「任意継続と国保の比べ方」「退職前後のチェックリスト」は当サイトの整理です。


